DX対談DX Conversation

広島大学
学術・社会連携室 特任教授
AI・データイノベーション教育研究センター連携部門長

串岡 勝明

株式会社 大興
取締役副会長

和田 敬三

Vol. 1

広島発 新時代のDX経営戦略とは─

近年、「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」が注目を集めていますが、大興グループでは2020年から独自のサービスとして、DDX(ダイコー・デジタル・トランスフォーメーション)サービスを提供しています。
グローバルでの競争激化やビジネス環境の変化に対応するため、AIやIoTの実用化などを背景に、本格的に取り組む企業が増える中、DDXサービスはどのように社会に役立つサービスとして利用されるのか。
株式会社大興の取締役副会長・和田敬三と広島大学の学術・社会連携室特任教授・串岡勝明氏の2人が語りました。

和田

DXという考え方は、2018年ごろから着目していました。ITは、ハードとソフトの最新技術を組み合わせて提供するものですが、一番大事なのはデータです。
例えば製造業では、設計ではCADで図面を書くのですが、製造指図や各種マニュアル制作では図面や写真を参照して、新たに作図をしていました。これでは手間がかかり、ミスも発生します。
設計とマニュアル制作の両方にプロ技術者がいる大興グループでは、設計で作られたCADデータを製造指示やマニュアルに活用できるよう、一連のサービスとして展開を始めました。その結果、マニュアルのデジタル化が進みました。
CADデータで正確な形状を表示し、画面上で機械を分解し、部品情報も連携させて、多機能なマニュアルが生まれました。これは、WEBで世界中どこからでもアクセスが可能になりますし、スマートグラスやVRゴーグルにも展開できるわけです。
そうなると、お客様は自社でデータ管理するのはたいへんなので「大興さんはITも強いので、管理してください」といわれるようになり、ボタンひとつで翻訳し多言語化できるトータルサービスも可能になりました。
こうして大興グループ各社のプロ技術をつなぎ合わせて「DDXサービス」としてリリースしたのです。

串岡

これらの取り組みは、よく耳にするDXのモデル的な発展形態といえます。大興グループはもともと、設計会社として出発したからこそ、いわゆるITベンダーのように、既存のITソフトを提供するとか、それをカスタマイズするとかではなく、何がかゆいところに手が届くか、自らの課題として分かっていたからこそ、それをサービスとして提供されたという歴史的経緯があるのではないでしょうか。


和田

わが社は創業以来「お客様から頼まれたら断らない」「やってみよう」「自分たちだけでできないことは、誰かに助けてもらおう」そうやってお客様にお応えしてきました。そのあたりを先輩方は、しっかりやってきたと思います。それを我々もしっかり受け継がないといけないんですが、40年も経つと保守的になりがちなんです。そこをもう1回新しい息吹を、というタイミングではちょうどDXがいい機会、いいテーマであったかなとは思います。

串岡

今、話題になっているDXというのは、デジタライゼーションを更に進めるというか、業務効率化なんですが、会社の業務全体を組織的に進めていくこと。DXの「X」というのは、あくまでも変革するということを意味します。それを進めるためのキーワードは、企業にとってトータルなデータを使って、組織的な業務効率化できるかということが、DXのステージになるのかなと感じます。大興グループは、解析やライティング、技術翻訳といった、いろんなプロが携わるからこそ、通常のDXでやるITよりは、範囲射程が広いと思うんです。
おそらくそこが、他の会社にはないDDXの強みなのかなと思います。
こういう人材を集めて、育成するのが、会社の一番の資源だと思いますけれども、こういった特別な人を集めるために、なにか戦略みたいなものはあるんですか?


和田

はい、広島には優秀な技術人材が多いということですね。東京で会社を作っていたら、ここまでの人材は集まっていないかもしれません。広島でじっくり作ってきた集団だから、落ち着いた佇まいでしっかりした仕事をする雰囲気というか、ムードというか、価値観というか。広島のものづくりの強みがDNAとしてあると思います。取引先の多くは、東京に本社がある大手の上場企業ですけれども「大興グループの本社は、広島なんです」というのを売りにしています。

串岡

これまで、ベンチャー企業の支援も行ってきましたけれども、創業者の方がおっしゃるのは、広島は高いレベルの人材がベンチャーにチャレンジしてくれる。優秀な人材がそういった仕事に腰を落ち着けてチャレンジできるというのは、そういう素地があると思います。広島に生まれて、育って、学んで、働いて、広島のような地方都市、一定の規模があるところは、魅力があるのではないでしょうか。


和田

串岡さんは広島大学で学生たちを指導する立場ですが、最近の学生たちは、DXという言葉自体、理解しているのでしょうか?

串岡

基本的に大学で学ぶことは、数学とか統計学とか、プログラミングとか、データサイエンスの基本的な勉強になりますが「DXが社会でどういった役に立つのか」について、全国区の企業の担当者に来てもらい、自分たちの学びがどう展開しているか、今後は地元企業の第一線で活躍する方に来てもらい、DXがどういう価値を持っているのか、講義してもらう予定です。

和田

そういうことを学んだ学生たちに、われわれ大興グループも、微力ながら「DDXという活動をしている」と伝えることで、感動してもらえたらうれしいですね。


串岡

コロナ禍の中で新たな価値を生み出すものとして、DXがテーマになってくると思います。DとX、デジタルとトランスフォーメーションは、新しい取り組みであり、チャレンジだと思います。大興グループもチャレンジしていくということで、変革をしていく、トップダウンで変革していくのが重要ではないでしょうか。DXであろうと、あるいは会社の変革であろうと、CX(コーポレート・トランスフォーメーション)であろうと、なんらかのXということが 1つのテーマであるとすれば、DXを端緒にして企業の変革をしていく、あるいは社会を変革していくというのが、今のテーマなんだと思います。そういった意識は、学生の皆さんにも興味を持ってもらいたいし、社会の動向を知ってもらうのが、われわれの役目だと思っています。

和田

我々がDDXを始めたころは、まだ世の中がDXの認知度が低く「これからはDXだ!」という時代でした。それが、この2~3年で、あっという間に変わったと感じます。取引先にも、DX担当役員が生まれたり、DXチームができたりしています。「我が社の経営方針にもDXだ、と社長が力を入れている」そういう変化を、ものすごく感じます。

串岡

大興グループのような取り組みは、DXとは会社が変わるDXと、DXのレイヤーを通じて、その会社が繋がっていく、つまり、社会のある部分がDXによって、より効率化していく。単に会社が効率化するのではなくて、DXを横につなげていって、社会全体がやっていくためのレイヤーというか、どういう層で繋がっていくかということを考えていくんだと思います。単なるデジタルによる効率化ではなくて、組織や仕組みを全体として変える、会社全体で取り組むことこそがDXだとすれば、この取り組み自体を支援することが、DDX的な発想ではないでしょうか。目的と結果がはっきりすることがすごく大事なので、提案先の企業の社内に仕組みや制度、組織を巻き込んでやっていくことが大事だと思います。

和田

若手の人材を抜擢して、しっかり責任を与えてフォローアップして進めている会社はいくつもあります。一方的にまかせっきりにしてもなかなか難しいので、社内を巻き込んで協力体制を得なければならないと思いますし、トップダウンでしっかりやっていく必要があります。今までは、上司が詳しくてさらに詳しいのは社長でした。社長が言ったとおりにやればうまくいくと。上司が部下に指示をするだけでしたが、今は若手社員の方がよく知っていることもあります。

串岡

デジタルに精通した世代は、デジタルネイティブといえます。会社の中のルールとデジタルネイティブをいかに融合させるか、トップが見ていく必要があります。そこがしっかりしないと、過大な期待も難しいし、せっかくの役割が果たせるための環境づくりをしていくべきです。会社全体で、部門毎に責任者をつけてやっていくというのは、中小企業にとっては、やりやすい面もありますし、トップダウンでできる強みになると思います。スピードが必要となりますので、他社に先駆けてスピードをもって取り組むのが重要だと思います。大興グループのような自律分散型というか、会社の中にアメーバのようないろんな組織があって、新しい知恵を出していって、会社全体で共有していく企業風土は強みになると思います。

和田

自律分散型というのは、分かりやすいですね。
会社自体が自由であって、自律分散型であることが、社内の組織ロジックの基本になるのでしょうね。
企業側にとっては、ITはアウトソーシングすることが多いです。コストは気にしますが、システム全体を変革するところまで気にしていません。これは、日本のDX化の課題です。一般的には、DXの根幹は内部でやっていくべきだと思います。ただし、全てが内製化できるわけではないので、知見を持った外部のアウトソース先と一緒に協業していく仕組みが、ともにウィンウィンになるかたちを作る必要があります。企業側と我々のようなベンダーが高いレベルで統合されるのが非常に大事です。

串岡

DXは、ビジネスモデル自体を変えるわけですが、日々の改善だけでは追いつかないところがありますので、DXの視点をトップがしっかり持っていないと、日々改善しても、一周遅れになりかねないわけです。今まで、強みとなっていたものづくりの改善の延長線上に、DXがあるかというと、そうではないです。AI技術の活用の仕方によって抜本的に改善できるとか、そういった目線での提案が大事です。顧客とのコミュニケーションモデルを提案しながら、会社の中で、組織や人のことをどうやって一緒に考えていくのかが大事です。実現するだけのデータを取り扱ってきたバックヤードがあって、今まで会社の中でやらなければいけなかったことが低コストで、クラウドでできるということが、企業にとって新しいプラス材料だと思います。


和田

ITが飛躍的に発展している中、5Gの威力も大きいと思います。2022年は、5Gとリモートワーク。ポストコロナで環境が大きく変わると思います。今の若い人たちは、デジタルやDX、これが当たり前の世界から入ってきて、世の中を作っていけば、これから先には世の中のリーダーになれるはずですね。

串岡

DXは、若い人たちに新しいことができる力を与えてくれるはずです。新しいことにチャレンジしたいという人は一定数、必ずいるので、そういった人たちと大興グループのような、歴史があって新しい発想を持つ会社が、新しい人材とともにDDXを進めていくのは、価値があると思います。加えて、地方発で発信していくことには、すごく価値があることだと思います。
世の中全体の半歩先を行く。半歩先に対しての目線で、全体を盛り上げていくことが大事だと思います。あいだをつなぐ、連携をしていくことが大事ですし、地域と大学をつないでいきたいと思います。

和田

半歩先を一緒に進む、いい言葉ですね。

串岡

お客様を大事にするということは、そういうことだと思います。

広島大学
学術・社会連携室 特任教授
AI・データイノベーション教育研究センター連携部門長

串岡 勝明

1957年 広島県生まれ。
大学卒業後、広島県庁入庁。主に産業振興業務に従事。
全国初となる公的投資事業組合のスキーム立案をはじめ官民ファンド「ひろしまイノベーション推進機構」の設立に尽力。
その後も、各種イノベーション推進施策の企画・運営などを担当。
2019年、広島大学社会産学連携室(現 学術・社会連携室)特任教授に就任。

株式会社 大興
取締役副会長

和田 敬三

1953年 福岡県生まれ。
大学卒業後、日本オリベッティでプログラミングや営業職を歴任。
リコーでは、営業をはじめ、販売企画や人事・教育など幅広く担当。
リコー中国(広島)や三愛の社長を経て、2012年に大興社長就任。子会社の経営体質強化や、新たな子会社の設立、M&Aを担当。
2019年から現職。

DDXDAIKO DIGITAL TRANSFORMATION SERVICE

大興グループの長年にわたる業務受託の実績から誕生した、
DX時代をリードするトータルサービス「DDXサービス」